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2021.11.26

熱心で排他的な人たちのパラダイス!?奥深いアナログレコードの世界

熱心で排他的な人たちのパラダイス!?奥深いアナログレコードの世界

“ここ”でしか聞けない“あんな話”や“こんな話”をお届けするぽにレコの目玉企画「ここばな(ここだけの思い出ばなし)」。

今回は、日本のレコード製造を支え続けてきた東洋化成に勤め、レコードをこよなく愛する本根誠氏と、ポニーキャニオン勤務、レコード歴40年以上のレコードマニア・伊達尚氏を迎え、尽きることのないレコード対談を2回にわたってお届け!前編では、根っからのアナログレコード好きなふたりが、レコード全盛期を振り返りながら溢れるレコードへの想いを語ってくれました。

取材者Profile

本根誠

本根 誠 Honne Makoto

東洋化成株式会社

伊達尚

伊達 尚 Date Takashi

株式会社ポニーキャニオン

“カッコ良ければ聴く”が俺らスタイル!限られた情報での楽しみ方とは?

——おふたりはいつ頃からのお付き合いなんですか?

伊達:本根さんとの出会いは、2001年で、僕が制作を担当していたオリジナル・ラブに、東京スカパラダイスオーケストラの“歌モノ3部作”の第1弾「めくれたオレンジ」へのフィーチャリング参加のオファーをもらったときなんですよ。

本根:あの企画は、昔、60年代のジャマイカで、ジミー・クリフ、デズモンド・デッカーとか主だったボーカリスト3〜4人と、バンドを務めたスカタライツが一斉に飛行機に乗ってイギリスにツアーに行った写真を見て、ボーカリストとバンドの一座みたいなのがカッコいいなと思って“これやりたい!”と思ったのがきっかけでした。

伊達:僕は当時、制作ディレクターの立場として本根さんの作られた作品に刺激を受けてとてもリスペクトしていました。

本根:本当?それは嬉しいね!

——おふたりが仕事で最初にアナログレコードと関わったのはどんな時期なんでしょうか?

伊達:1990年くらいに日本のレコード業界全体がCDにシフトチェンジして、アナログレコードのプレスをほぼ止めましたよね!?僕がポニーキャニオンに入社したのが実は1990年なんですよ。

本根:俺、アナログレコードを業界が止める瞬間、ちょうどこの業界にいたんですよ。1989年に六本木のWAVEで働いていて、それが音楽業界の俺のデビューなんですけど、当時、山下達郎さんが『JOY』(1989年11月1日発売)というライヴアルバムを出されたんです。そのときのアナログのキャッチフレーズが<これが最後のレコード盤です>みたいな感じで。1989年に日本国内のアナログレコードは、一旦終了したって考えられるんじゃないかな。その後、1990年くらいから特販アイテムみたいな感じになって、クラブプロモーションをやるから100枚作ろうとかそういう時代になっていったんですよね。

伊達:メインの商材としてアナログレコードを一旦終了した翌年に入社しているので、実際に販売する立場ではほぼ携われなかったんです。

本根:ちょうど終わった頃だもんね。

——ある種、終焉を迎えた後も、おふたりのアナログレコードへの熱が冷めることはなかったわけで。

伊達:本根さんはエイベックスに籍を置きながら、アナログレコードもちゃんと制作されてきたディレクターですしね。

本根:アナログの制作に限らず、我々の世代はみんなオーバーヒートの石井(志津男)さんの出来の悪い真似っ子だったと思います。石井さんは、ご自身でレコーディングディレクター、販売営業、宣伝まで行うインディのかくあるべしを日本で立ち上げた人。しかも、企業とのタイアップもご自身でクライアントのところに乗り込んで、一歩も引かないカッコよさ!ぼくら90年代デビューは、石井さんたち世代がやりきったことのかけらを集めているだけだから。ひとつ思うのは、俺らは洋楽だからとか、邦楽だからって聴いていたわけじゃない世代。単にその音楽がカッコ良かったから聴いていたわけで。でも、俺の10個くらい下の子たちは違ったんだよね。「僕、洋楽派なので」なんて言う子もいて、洋楽と邦楽の間に当たり前のようにパーテーションができていて。それだけマーケットが大きくなっていって、嗜好が明確になってきていたんだよ。JAGATARAでもローリング・ストーンズでもカッコ良ければ聴くというスタイルが俺らの世代。情報がないがゆえに誤解がまかり通っていたというか。

伊達:本当にその通りです。僕らが10代の頃の日本は洋楽・邦楽問わず限られたメディアからの情報しかなかったですからね。ジャンル・ボーダーレス世代。その結果、雑誌の切り抜きやコンサートチケット、ライヴチラシなどをレコード・ジャケットに保存させ自分の持っている情報を蓄積するような行為に夢中になっていました。

最近の表現に物申す!“アナログ盤の音=柔らかくて温かい音”は間違い!?

——世代によってアナログレコードに対する接し方が少しずつ変わってきたんですね。

伊達:僕は中古レコード屋さんによく通うタイプなんですけど、中古レコードの中にたまにチラシが挟んであったり、自分で対訳をしているメモが出てきたり、誰かにあげた名前入りのものが出てきたりと、一期一会がモノの中に潜んでいる偶然があることも楽しい。アメリカにも妄想のスーパースターを記録したレコードジャケットを作っていたという、ミンガリング・マイクっていうアーティストもいましたよね!それが日本でも写真集化されたりもして。

本根:実は俺も自分でジャケットを作っていたわけだけど、中学生のときにこういうことをやっている自分がカッコいいと思ってやっていたんだよね(笑)。俺はイケてる、ローリング・ストーンズのマディソン・スクエア・ガーデンのブートレグ(海賊盤)を持っているんだって。お前らなんかにはわかんねぇからっていう気持ちが心のどこかにあるから、一人で一生懸命やるわけですよ。今でもわかる人にわかればいいやっていう気持ちが心のどこかにあるんだよね。だから多分、俺の仕事はこれ以上広がらない(笑)。そういう人のパラダイスでありたいというか、熱心で排他的な若者の集まりが好きです!

——当時の本根少年と今の若者世代では、アナログレコードとの向き合い方は確実に違いますよね。

本根:そうかもしれないですね。当時の中学生の俺の方がイケていると思う(笑)!もっと孤独だったというか、世の中に対して自分からシャッターを下ろしていたというか。ロンサムでいたいから音楽聴いていたのに、友だちもほしいという(笑)。

——技術の進歩によって何でもデジタルで作れる時代にもなりましたしね。

伊達:それで言うと、CDってCD-Rが出た瞬間から個人でモノ作りができるようになってしまったメディアなんですよ。

本根:みんなアーティストになっちゃったというかね。

伊達:でも、アナログレコードに関しては専門の方に委ねない限り個人では作れないんですよ。その違いはすごく大きいと思います。音楽って本来は“モノ”として見えるものではないんだけど、僕らは聴くための“モノ”として育ってきていて。そのモノへのこだわりを持ったアーティストやレコード業界の先人たちの気概というか、いい音への追求やワクワクするようなジャケットやブックレットを作ってやるぞ!という想いにリスペクトしつつ、微力ですが携わり続けたいですよね。CDはマスタリングエンジニアの最終的な音の整音がものすごい重要で、そこで最終的に商品となる音の決定をするんですけど、レコードの場合はマスタリングエンジニアの次にカッティングエンジニアがいて、そこでまた音が変わってしまうんです。詳しく言うとレコード盤面の音溝に信号を刻み込むカッティングという製造工程があるんですね。なので、カッティングエンジニアが整音した音が最終決定になるんです。そこのプロフェッショナルである東洋化成さんには、カッティングのエンジニアさんが専任でいらっしゃるんですもんね。

本根:そうですね。カッティングエンジニアだけで飯食っている人って、国内には多分10人もいないんじゃないかな。

——まさに匠の技がそこにあるんですね!最後に伊達さんから本根さんに聞きたいことがあるそうです。

伊達:ここ10年くらいでアナログレコードに関する表現っていっぱいメディアやネットに出てきているじゃないですか。「レコード盤、アナログ盤の音は柔らかくて温かい音」という表現がすごく多いと思うんですけど、個人的にはそういうつもりで聴いたことは1ミリもなくて。なぜ40年以上に渡ってレコードを聴き続けているのかっていうと、ラウドでパンチがあってパワフルで芯の太い音が高音も低音もガンガンに再生できるそんな最強のメディアがアナログ盤。簡潔に言うと最高に気持ちがいい!からだと思うんですよ。

本根:おっしゃる通りで、アナログは作った人の作ったときの志向に合わせた音作りのできるメディアだと思います。俺が一番良い例だと思うのは、オリジナル盤のシングル「ペイパーバック・ライター」ですね。

伊達:ビートルズですね!

本根:「ペイパーバック・ライター」「レイン」のAB面は、ものすごくハードロックみたい。当時のモノラル盤で聴かせてもらったんだけど、これがビートルズがやりたかったことなのね、ごめんなさいでしたっていうくらい暴力的な音なんですよ。だから、アナログが柔らかくて、ほっこりして、コーヒーを飲みながらくつろぐっていうのはひとつのあり方でしかないというか。なんで今そう言われるのかっていうと、見た目がおじさんっぽいとか、レコードがくるくる回っていてなんかかわいいよねっていうだけで、音としては例えばクラシックだったらものすごい深みも与えられるし、ビートルズでも暴力的なテンションを付け加えた感じになっていたり。

伊達:本当ですよね。クラシックのレコードはダイナミックレンジが広く、通常のCDでは再現できないような音の広がりや厚みがありますから。

本根:レコードは、そういういろいろなアーティストの想いを受け入れられるメディアだと思うな。(Vol.2に続く…)

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