“ここ”でしか読めない“あんな話”や“こんな話”をお届けする、ぽにレコの目玉企画「ここばな(ここだけの思い出ばなし)」。
今回はジャズ、スカ、ダブなどを素材としながらあくまで「東京発」というクールなスタンスで音楽を主張してきた小玉和文(こだま和文)率いる孤高のダブ・バンド、MUTE BEATの1st~3rdアルバムとライヴ・アルバム、そして小玉和文のソロ・アルバム『集団左遷 RETURN OF THE DREAD BEAT』の計5タイトルが2024年11月3日「レコードの日2024」に一挙アナログLPでリリースされることを記念して、小玉和文さんご本人にメール・インタビューを決行しました!
現在はKODAMA AND THE DUB STATION BANDを率いて活動されている小玉さんと言えばFishmansの1stアルバム『Chappie, Don't Cry』のプロデューサー!多くの小玉和文チルドレンを産み出した日本の音楽シーンにおけるニュー・ウェイヴ~レゲエ~スカ~ダブの先駆者的アーティストなのです。
30年ぶりに『集団左遷』制作当時の記憶を探っていただきました。
Q1.最初に、映画『集団左遷』サウンドトラック(オリジナル1994年11月発売)の劇伴制作のお話はどのような流れであったものなのでしょうか?東映サイド?映画監督から?メディアレモラス経由?また『集団左遷』以前になにか劇伴のお仕事はされていましたか?
当時、東映の音楽プロデューサーだった石川 光さんから連絡がありました。
「江波戸哲夫さん原作の『集団左遷』を梶間俊一監督が映画化するので、音楽を担当してほしい」とのことでした。その後、石川さんと直接お会いし、ご説明がありました。「梶間監督が、MUTE BEATを聴いておられ、新作映画の音楽をやってほしいとご希望がありました」とのこと。
「監督は“COFFIA”(MUTE BEAT『STILL ECHO』収録)が『集団左遷』のテーマ曲のイメージとなっているそうです」とも聞きました。ぼくは、映画音楽を演ったことがありませんから、お引受けするかどうかよく考えましたが、この“COFFIA”のお話を聞いてお引き受けする気持ちになりました。
後に知ったのですが、監督の夫人が好きな曲だったそうです。
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Coffia / MUTE BEAT (official - OVERHEAT Records)
Q2.小玉さんにとって、ソロ・アルバムと劇伴との違いがあればお聞かせください。創作過程において具体的にはどのような違いがありますか?
映画は映像、ストーリーがあり監督、俳優の演出演技が主体です。音楽はそこにプラスになるよう作用させる音です。ソロ・アルバムは全て自分だけのものですから、創作過程が異なります。初稿のシナリオだけがあり、それを読みながら、ここは音が必要か、要らないかなど、漠然とイメージし、印をつけたりすることから始めました。石川さんの助言にも救われました。
マイルス・デイヴィスが演った『死刑台のエレベーター』(1958年ルイ・マル監督作品)は、ほぼ完成した映像を観ながら即興演奏録音した、と聞いていますが、それはとても稀な例でしょう。
初めてだったぼくの映画音楽は、映画撮影クランクインとほぼ同時に進行していったのですが、途中少しずつ撮られたラフ映像を観られる日があり、それを大切にして曲を作っていったのです。
その中に、暑い夏の昼間、たぶん新宿にある噴水の水で鳩が羽繕いをする、数秒間の無音の映像があったのですが、印象的で、今でもその一瞬の映像を思い出します。
でも、完成した映画には、そのシーンはなかったと思います。
それと同様に一生懸命作曲した曲も、映像に貼られることなく消え去ることも多々あるのです。
『集団左遷オリジナル・サウンドトラック〜小玉和文の映画音楽〜』には、映画で使われなかった曲も収めているのです。映画音楽でありながら、ソロ作品として聴いていただけるアルバムにしたいと想っていました。
鈴木清順監督作品の『ピストルオペラ』(2001年)は、ぼくが映画音楽を担当した2作品目ですが、この時も使われなかった曲がいくつかあり、それらの曲の愛しさのあまり、サウンドトラック盤とは別に『NAZO』(ビクターエンタテインメント)と題して、ソロ・アルバムで発表したのです。映画と映画音楽を巡る「謎」という意味です。
Q3.親交の深い関係だったリコ・ロドリゲスとの出会いのきっかけ、そして『集団左遷』のレコーディング参加に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?
リコが『リターン・フロム・ワレイカ・ヒル』(1994年アルファエンタープライズ)を作ることになった時、ベーシストのクーボ(大久保 晋氏)から参加を依頼されたのです。リコと初めて会い、共に演奏する機会をくれたクーボに感謝しています。
その後『集団左遷』、KODAMA AND GOTAの『SOMETHING』(1996年ソニー・ミュージック)に至る親交が深まっていったのです。
Q4.演奏参加されているFishmansのメンバーおよびエンジニアZAKさんの人選に関して、当時の想い出などお聞かせください。またFishmans『Chappie, Don't Cry』(オリジナル1991年5月発売)をプロデュースされて以降のお付き合いなども含めてお聞かせください。
あの頃、ご縁があったバンドがFishmansでした。
限られた時間の中で確実性を求められる映画音楽を演る上で、きんちゃん、ゆずる君のリズム隊、ハカセのキーボード、ZAKの確かさを識っていましたから、真っ先にお願いしたのです。
当時、Fishmansの都内のライブには、ほとんど顔を出していました。
そのうち、ぼくの酒量が増え彼らに対して、ぼやくような日があり、佐藤伸治君に敬遠されているのではないかと反省したことがあります。
でも、今もハカセが、KODAMA AND THE DUB STATION BANDのキーボーディストとして活躍してくれています。
Q5.レコーディングでのエピソードなど、ご記憶ありましたら教えていただけますでしょうか?
とにかく毎日一生懸命でした。
MIX段階になった頃、東京タワー真下のレコーディング・スタジオでしたから、時々タワーに上り、打ち込みデジタルトラックを担当してくれたアパッチ田中君とカレーライスを食べたり、自分が生まれた日の新聞コピーを買ったりして気分転換し、スタジオワークに戻る、そんな日もありました。
Q6.『集団左遷』におけるDUBの手法に関しまして、可能な限り教えていただけますとウレシイです。ベーシック・トラックを完成させてから、最終的にZAKさんと小玉さんとアナログ卓でDUB MIXをするようなアナログのミックスダウン手法のイメージでしょうか?
作曲している段階でざっくりしたDUB感は、いつも感じ取っています。
録音していく中で、それをZAKに伝えながら、ぼくは卓には触れませんでしたが、細かいところまで、お願いしていたと思います。DUBは編曲でもあるのです。応えてくれたZAKに感謝しています。
Q7.今回、マスターテープの中から、未発表のテイク「暗闇からの視線〜FIRE FIRE(RICOが遺したメッセージ・バージョン)」が発掘されました。またマスターテープのトラックシートに<for Analog LP用>との記載がありました。当時の担当ディレクター山本玲彦さんの記憶では「小玉さんからリコに冒頭のヴォイス・メッセージをお願いして収録した記憶がある」とのことでした。この未発表テイクに関するなにか手掛かりになる記憶があればお聞かせください。
リコのメッセージを聴きながら、お願いした時のことをうっすら思い出しました。
ぼくは、レコーディング中の瞬間を大切にしようと、いつも心がけています。
その日その時だけの音。共にいるアーティストとのかけがえのない時間。
フィッシュマンズの「夏の思い出」(1分10秒あたり)に遺された佐藤伸治君の「きこえる?」
池田満寿夫さんとの共作アルバム『an endless』(1984年ポリドール)など。
REGGAE、DUB、HIPHOPは、生声メッセージを生かせる音楽です。例えばDJ用に、MCだけのメッセージを録っておき、イントロ、曲中、で自由にミックスして使うのです。そんなこともあって、大切な一言を録っておきたいと心がけているのです。いつか生かせる時のために。
だからリコにも、「何かメッセージをいただけますか?」とリクエストしたのです。
リコは心よく応じてくれました。
そして今、聴くことができるのです。
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The Specials - A Message To You Rudy (Official Music Video)
Q8.最後に、小玉さんから30年ぶりにアナログ盤として復刻される本作に対する思いと、ファンに対するメッセージをいただけますでしょうか?
最新のマスタリングによる高音質に感心しました。40年程の間に、アナログからデジタルに変わっていった中で、高音はクリアーになったけど低音が足りないなど、いくつもの難を超えて来て、今在る音に感心したのです。
例えば、無音の山頂で「ヤッホー」と上げた声の、こだまする最も遠くの先端の音が聴こえてくる感じなのです。あるいは、当時スタジオで、自分が調整したモニター音でレコーディングしている時の、ヘッドフォンの純粋な音のようでもありました。リコの演奏の生々しくも美しい音、目の前で演奏しているかのような音の存在感に感動しました。
時を超えて、リコの凄まじい演奏に涙が滲みました。
どうか皆様、古いも新しいもない、ただここに在るエターナルな音楽を聴いていただけたら幸いです。
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以上、いかがでしたでしょうか?
今回のアナログ盤5作品はLee PerryやJoe Gibbsなどレジェンドたちのダブ作品の多くを手掛けたイギリスのエンジニアDave Turner氏により、オリジナル・マスターに忠実に、徹底的に重低音にこだわり尽くした圧巻のカッティングに仕上がっております。
さらにアナログ・レコードに先行して10月30日には5作品とも高音質UHQCD盤も再発されますので、当時の音質を凌駕する仕上がりになったと自負しております。
LP・CD合わせて聴き比べなどしてお楽しみいただけましたら幸いです。
そして!
MUTE BEATと小玉和文ソロのアナログ盤5作品の発売を記念して、タワーレコード渋谷店6F TOWER VINYLにてポスターパネル展実施決定!
展示されるポスターは、OVERHEAT MUSICが80年代に制作した貴重なコンサートの告知ポスターなど9点とフリーペーパー「Riddim」誌のMUTE BEAT特集号も展示される予定。これらのポスターは、当時のコンサート会場等での事前告知用として僅かにプリントされた、歴史的にも80年代東京のアート・音楽・ライヴ・レコードを結びつける貴重な展示になるのでぜひお見逃しなく。
【 詳細 】
会場:タワーレコード渋谷店 6F TOWER VINYL
期間:2024年11月2日(土)~11月18日(月)
問い合わせ:タワーレコード渋谷店 TEL:03-3496-3661
https://towershibuya.jp/blog/2024/10/30/205692